理事長コラム

平成19年08月01日

「医療の崩壊と医療構造の改革」

社団法人全日本病院協会
常任理事 平山 登志夫


  医師不足による診療科目の縮小、病棟の閉鎖が続き、医療の崩壊が叫ばれている。福島での産婦人科医の逮捕、研修医制度等原因に諸説があるが、医師が自分の願う医療と現実の医療との乖離・歪みに限界を感じ現場を去っていくことに問題がある。崩壊とは、大きな外圧によるものと内部の歪みが蓄積し、一挙に崩れ落ちるものがある。医療面では多方面にこの歪みが積み重なっている。


 平成18年10月に千葉県の民間病院に対し医療問題に関するアンケート調査を行ったが、アンケートに応じた81病院の内84%の病院が看護師不足を訴えた。本年度に入り良質の医療を提供していた病院の一つが看護師不足のために閉院した。医療の崩壊が始まっている。
 我が国の看護師数は人口対比で世界的なレベルであるが、医療の現場では常に不足している。少子化の進む現在、大幅な増員は困難である。
 看護師は20歳代前半で学校を卒業して医療を受け持つ。20歳代半ばで結婚、出産、育児と言う女性としての道を辿る。多くの看護師が、出産、育児に伴う母親としての責任と職業との両立が出来ずに医療の場を離れる。
 復帰するのは子育てから手が離れる10年後である。復帰しても夜勤の無い職場を選択する。夜間の業務は肉体的に苛酷なものでその責任も重い。更に復帰を妨げる大きな要因に医療過誤の問題がある。医療過誤の80%は看護師が関係すると言われる。


 医療は基本的に医師と看護師の業務で成り立っている。看護師の業務は広い範囲に及びその責任を負わされる。夜勤や医療過誤等、看護師の義務、資質を論じる前に医療構造上の歪みを問題にすべきである。厚生労働省も「医療・介護のサービスの質の向上と効率化プログラムについて」の中で、医師、看護師等医療従事者の役割分担に取り組んでいる。役割分担のみに止まらず、本来医療は何のために、何を、誰がするのか、その為の知識や技術はどれだけのものが必要か、従来の慣習にとらわれない基本構造からの論議が必要である。


 科学の進歩は目覚ましく、ITは全面的に取り組まれ、ナノテクノロジーやロボット工学の応用まで身近なものになっている。科学技術の進歩に対応が出来て、医師や看護師の良きサポートが出来る新しい職種の開発も必要である。


 医療の現場には人材問題だけでなく、病院の建築、病棟の配置、病室の構造、様々な医療機器や器具等あらゆる面で歪みが山積している。我が国の産業はトヨタを始め業務のあらゆる面で現状に案ずる事もなく、常に改善に取り組み世界の評価を得ている。医療も厳しい抑制のうねりの中にある。崩壊を待つのではなく、医療の質の向上維持を目指し、全ての歪みを見直し改善して行かなければならない。